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第一話

 男女合わせて五人の青少年が、神妙な顔つきで丸テーブルを囲んでいた。
 その構図は何から何まで異様だった。 まず、金の目に鮮やかな若葉の様な色の髪という人間離れした容姿の大柄な若者が、テーブルに置かれた金属製の立方体をひたすらに凝視していた。
「――で、これで未回収なのは後六つ。 意外と早かったよな」
「あたし達に仕事が引き継がれた頃から、立て続けに起こってるからね。 蒸発」
 輝く金髪の、それなりに愛らしい容姿の少女は事も無げに言うと、物体を手に取った。 土を払い落とし、たまたま手元にあった筆記用具を彼女が見繕って物体を弄ると、いとも簡単に蓋が開いてしまった。 彼女は中を覗き込んで、一三六八五二九一……と謎の数列を読み上げる。
「ちょっとちょっとテセニア、幾ら器用だからって適当にペンでこじ開けるとか止めて下さいよ? 中の字が読めなくなったらその先どうしようもないのですから……」
 そう嗜めたのは、全身黒い服に身を包んだ、この中では比較的年上の女性――いや、顔立ちからすると歳はそれほど変わらないようだった。 想像される年齢とはかけ離れた落ち着きを見せている。
「とにかく、困りましたね。 その数の並びから座標計算すれば飛んだ先の大陸、国、大体の地方までは割り出せますが、それ以上はデータがない」
「更に言うならば、向こうの時間の進み方によっては救出対象がかなり動いているかも知れない。 ……現地で情報を集める他に術はないか。 それでも上手くいかなければ各自散って探す事になるだろうな」
 青年はそっと眉を顰めた。 少し白っぽい肌とは対照的に、髪の色素は濃かった。 常人のように黒ではなかった。 夜の闇のような濃い藍色をした長髪が、彼の静かな動作一つにもさらさらと揺れる。
「どうする? 早い所こっちを出ないと、ますます見つからなくなるぜ」
「勿論だ。 だがクレス、対象がどんな容姿の人間かも判らず、対策も取らずに慌てて行ってもどうにもならないぞ」
「あ、聞き込みして見た目は判ったんだよ」
 真っ赤な瞳の少年が口を挟んだ。 この異様かつ歳の若い集団のなかでも、明らかに年少だった。 
「赤毛のお姉さんだって。 学生さんぽいって言ってたかな、多分テセニアとかと同じくらいの。 背の高さは僕よりちょっと高かったみたい。 これより詳しいことはちょっと」
「充分ですよ。 ……ヴィディ。 そういえば今日はここに発掘道具ほとんど忘れていったみたいですが、どうやって作業したのです? まさかテセニアのように勘で掘り出してきたとかそういうことはないでしょう」
 ヴィディは思い切り首を横に振った。
「まさか! そんな怖いこと僕に出来ると思ってる? スコップしか持ってなかったから、その辺の石とか適当に投げた。 で、どうも石が消える場所がすごく小さいから、装置は上向きでその場所がスイッチだな、と思って」
「スコップだけ! お前、転移装置のスイッチが下向いてたらどうやって持ってくる気だったんだよ。 うっかり飛ばされるぞ」
 クレスは思わず声を上げた。 蓋が開いて用済みになった物体を掴んで、ボタンの付いている方を下に向けながら、ヴィディに向かって軽く脅すように言った。
「うーん、どうしてたかな……どうしよう」
 それを聞いたヴィディも、そうなっていた時のことを考えて嫌そうな顔をする。 するとテセニアがあっけらかんとした声でその場を収めた。
「まあまあ。 今回面倒な思いしたんだから、もう道具忘れて出払ったりとかしないでしょう? 次起きた時はその心配をする必要ないわ」
「……次起きた時、か」
 誰に言うでもなく、シュレが呟いた。 フェアが色素の薄い目でちらりと見ると、彼は少しだけ憂いを帯びた表情で、薄汚れた転移装置を見つめていた。

「とりあえず、ここまでのことをまとめよう」
 ヴィディはそう切り出すと、出てきた情報を話し始めた。
「今回空き地に埋まっていた転移装置で、学生さんらしき人が異界に飛ばされた。 この転移装置を回収してきたことで、この世界に残っているのは後六つ。 ここまではいいよね?」
 全員が頷いた。 そこでテセニアがぼそっと言う。
「こんな無差別にものをあっちこっちへ飛ばす物が、しばらく前には世界中に埋まってたなんてね。 しかもあたし達の持ってるこれと違って、どこへ行くか全く分からない」
 彼女は懐から、机の上にあるものとよく似た、しかし古びた様子でない転移装置を取り出して眺めた。 窓とスイッチと複数のダイヤルが付いている。 そのダイヤルをくるくる回すと、窓には様々な文字が表示された。
「人が移動するためにできた物で人が行方不明になって、それを見つけ出すために転移装置を改良して……、もう訳が分かりませんね」
 フェアは現状を嘲笑っているようだった。
 誰でも瞬間移動が出来る転移装置。 夢のような物体はかつて世界中に広まった。 しかしそれは人々を、この世界ではない異界の見た事もないような場所へ転送した。 欠陥品だった。
「しかもその時の処分が上手くいかなかったんだっけ? 全く、適当に棄てるとかずさん過ぎるぜ、こっちの苦労も考えてくれよ」
 クレスは半分呆れた様子でもあった。
 世界は混乱の渦に飲まれ、やがて人々は転移装置を手放す。 しかも、ただその恐ろしい物を近くに置いておきたくないという恐れだけが人の思考を支配し、多数の不法投棄を生み出した。 地に埋もれてゆく装置。 こうしてしばらく後、人々の夢はある種の地雷と化した。
「しかも飛ぶ先の世界は様々、下手したら命も落としかねない。 ……情報が揃っているなら、急いで方針を定めるべきか。 フェア、肝心の場所は?」
 飛ばされるのは、魔術や妖魔などというものが跋扈する世界。 あるいは正反対に機械に支配されている世界、そのいずれかである。 いずれにせよ、救出対象は限りなく不安な心境になることは間違いない。 シュレは行くべき場所を尋ねた。
「さっきの数列から推定できるのは、まず……この大陸ですね」
 フェアは壁にある二枚の世界地図から一枚を選び、その中で最も大きな大陸を指した。
「マジか! 『こっち』の地図ってことは、魔物がいるかもしれない……!」
「まあ確かに、『こちら』の世界にはそういう危険性もありますよ。 ただ、地方としてはここです。 魔物の生息する地方とは大陸の真逆の位置、多少そのお嬢さんが彷徨って移動していても襲われている事はないでしょう」
 彼女の説明を聞いて、思わず立ち上がっていたクレスようやくは安堵した。 逆に、危険でない事が分かったからこそ、これまで彼女は仲間を急かさなかったのだろう。 そこまで聞いていたヴィディが、すっくと立ち上がった。
「何にしても、転移先の世界が『そっち側』である以上、用心するに越した事はないよね。 装備……整えよう?」
 彼は壁に掛かっている、自分の身長に近い程の長剣を取った。 年相応に幼い顔に、血のように赤い瞳。 小柄な少年の手に握られているのは紛れもなく得物である。 あまりにも不釣り合いだった。 そして彼は、荷物を取りに階段の方へ歩き出した。
 ヴィディだけではなかった。 他の者もそれぞれ準備のため、二階へ向かう。 あるいは、もう既に行動に出ている者もいた。

「そういえば」
 同じように歩き出そうとしたシュレに、後ろからフェアが声をかけた。
「さっき、どうも何か引っかかっていたみたいですが……次起きた時、とか。 どうかしたのですか?」
 ゆっくりと振り返り、彼はそっと笑って答えた。
「別に、今更大して気にすることでもない。 ただ――」
「ただ?」
 彼がやや答えることに躊躇ったので、フェアは最初ふと気にかけた以上に気になっているようだった。
「――いや、本当に何でもないんだ。 ただ……この仕事に、『次起きる前に』は存在しないのだと思い知らされただけで」
 その言葉にフェアは一瞬、口を噤んだ。 どう解釈してどう返事すべきか思考を張り巡らせていたのかもしれない。 そして色々思案した後、ふと思い立って口を開いた。
「……まあ、分かりますよ。 結局の所、今の状況は二度手間なんです。 誰かが行方不明になることで装置の場所を探り、後でその誰かも救出に向かう。 行方不明になる前に発見できればここまで大変ではなかったでしょうね」
「嗚呼、……それもそうだな」
 彼女は自分の言葉の後に相手の表情を見て、若干の違和感を覚えた。 複雑なものが色々と入り混じった微笑だった。 その微笑が、自分の口にした内容に対するものとしてはあまりにも感傷的過ぎるのだ。 そして何より、新しい考え方を聞いたようなその返答が噛み合わなかった。 彼女の言葉は、どうやらシュレの考えを代弁するには至らなかったらしい。
「ふむ。 私は間違った返事をしたか、少なくとも貴方の考えている事柄に対しては見当違いな事を言ったようですね」
 彼の返事は、フェアに予想のつかない部分を補完するものではなかった。
「見当違いではない。 どちらかといえば、間違っているのは私のほうなのだろう。 全く……進歩しない自分が嫌になるな、いつまで感情的なままでいるのか」
 フェアは、そのままシュレが軽く手を振って歩いて行くのを止めなかった。 ただ、些か情緒が欠けているのかも知れない自分と、あまりに暈した表現ばかりする彼の会話に、先程よりも大きな違和感を感じるばかりだった。

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